方程式・迷宮・カオス (Dolk)

<p>人類は誕生の瞬間から、恐怖を弱さとして見なしてきた。進歩を阻む原始的な障害、断ち切るべき鎖、捨て去るべき足かせ――そう考えてきたのだ。冷や汗も、早鐘を打つ心臓も存在しない「超人」のモデルを、私たちは皆一度は夢見てきた。そこでは決断は純粋な論理と完璧な勇気によって下される。</p><p>だが、もし恐怖が欠陥ではなく、私たちが怪物へと堕ちるのを防ぐ、唯一の安全装置だとしたら？</p><p>あなたが今手にしているこのファイル――《DOLK》――は、戦慄すべき実験の記録である。名もなき箱が玄関先に置かれるところから始まり、人間の魂の最も暗い回廊へと沈んでいく物語だ。</p><p>謎めいた人物ドルクは、彼が〈ヴァルグロート〉と呼ぶ古代の化学化合物を通して、選ばれた被験者たちに冷酷な問いを突きつける。</p><p>――「恐怖が存在しない場所で、良心は生き残れるのか？」</p><p>社会学者（精神）、分子生物学者（コード）、心臓外科医（身体）......<br>この三人は、九日間にわたり、自らのアイデンティティが体系的に解体されていく過程を目撃する。ヴァルグロートが血管を巡り始めるとき、社会的道徳、生物学的限界、そして外科医療の倫理が、恐ろしいほど静かに蒸発していくのを、あなたは息を詰めて見届けるだろう。そこに現れるのは、完成への執念が偉大さではなく、完全な虚無へと至る姿である。</p><p>このテキストは、単なる心理サスペンスではない。制御、効率、野心の名のもとに、感情や脆さ、恐怖を差し出してきた現代人への、社会学的な挽歌でもある。</p><p>キャンバスに残された画家の孤独な赤い点から、外科医のメスが放つ冷徹な精度に至るまで、すべての細部は、ただ一つの真実へと私たちを導くために配置されている。――人間が人間であるのは、不完全さゆえなのだ。</p><p>ページをめくるたび、あなたは舌にヴァルグロートの金属的な苦味を感じ、次の問いから逃れられなくなるだろう。</p><p>もし一本の注射器で恐怖を抜き取れるとしたら、あなたの中に何が残るのか？</p><p>闇へようこそ――ドルクの世界へようこそ。<br>だが忘れてはならない。このファイルを読むことは、単なる観察ではない。<br>それは、良心が永遠に背負う重荷を、分かち合う行為なのだ。</p><p>メリーケ・メリス（編集）</p>